「あの時と同じ……」

《ええ。けれど、これはただの光ではありませぬ。本当に、時空を越えてしまう扉です》


あの日、雪狐が恭一郎様に悪戯したのと同じくらい優しい光。
これを通ってしまえば、もう二度とこちらへは戻れない。


《私は恭一郎殿のいた世界を念じておりますが、私自身術の完成度を事前に確める術はない。大人二人同時に飛ばしてしまえば、きっと私には戻す力は残されていないでしょう。それでも、行きますか》

「……うん。私ね、何の根拠もなく、絶対大丈夫だと思ってるって、自分でも少し呆れたけど……根拠、あったわ」


――大好きな人がいる。
私が動くには、それだけで十分。


《はい。貴女は強くなった。それでも、ご存じでしょう? 大切な人には、たとえ求められずとも手を差し伸べたくなるものだと。この狐すら、そんな想いが芽生えたのです。私の姫》


そういえば、雪狐はどうして私をそうまで気に掛けてくれるのだろう。
恭一郎様の夢や話の中では、ついに分からずじまいだった。


「ねえ、雪狐。あなたは……」

《さあ、時間です。恭一郎殿、姫を頼みましたよ。それから、言ったように夢を見なさい。今度は、貴方の住む世界で叶えてみせて》


最後にと尋ねたけれど、雪狐はにっこりしただけで、教えてはくれなかった。


「ああ。必ず、小雪と叶えると約束する」

《その言葉、努々お忘れなきよう。……さようなら。恭一郎、小雪》


名前を呼び捨てられた時には、もう何も見えない。
離れないようぎゅっと抱き締められ、私もただ感じられる腕に触れ、その背中にしがみついた。


(……大丈夫)


私が与えられた、この絶対的な安心感をこの人にも返したい。

逢いにきてなんて、もう泣かない。
逢いに行くから。
だから、早く元気になって――また、こうやって、ぎゅっと。

本心だけれど、強がりだ。
お見通しだと言うように、瞼におまじないが降ってくる。

――大丈夫、また逢えるんだ。