照れているのか、頭を胸に押しつけられて顔を見ることができない。


「……っ、絶対ですよ!! 私、頑張りますから。だから、お願いだから……ずっとそう思っていてください」

「頑張らなくていい。お前がいれば、私の欲深さは消えないから」


暴れる私に、ようやく頭から手を離してくれた。
嬉しくて、喜び全開で見上げる私に、なぜかまた照れたように笑った。


《それならば、よいのです。まあ、及第点だと言わせていただきましょうか》


いつの間にそこまで来ていたのか、恭一郎様と私の間に雪狐がいた。
膝にちょこんと座った彼を、もう何も考えずに抱っこしてしまう。


《貴女にこうして抱かれるのも、最後となってしまいますね。残念でなりませんが、それでも私の想いは貴女とともにあるのですよ。雪兎の君》


ふわふわの手触り。
心を満たしてくれる温もり。
珍しく、でも彼の愛らしさを何倍にも増す二又の尾。
それから、時々呆れながらも、大抵吐き出される甘い台詞。
そのどれも失くしてしまうのだと思うと、ここでも私は泣くことしかできない。


《ふふ。どこぞの男ではありませんが、貴女の目が赤い理由が私だと思うと、何とも嬉しいものです。化け物にはあるまじきことですが、所詮はただの獣だと思ってお許しください》


もふもふの顔が側に寄って、そっと頬に口づけられた。


《お別れです。幸せに、小雪》

「……雪狐はどうなるの? 」


以前の彼は、声だけだった。
姿形はあったのだとしても、少なくとも私の目には映っていなかったのだ。
今度力を使ったから、あまりに負担が大きいのではないだろうか。


《この身体は借り物に過ぎませぬ。消えたとしても、また別の入れ物を探せばよいだけのこと。ああ、次は人形も良い。貴女の前に姿を現すにはね》

「……その時は、小雪が思い出す前に始末する」

《精々、病を治しておくことです。でないと、さすがの私も姫を奪うのに良心が痛む》


見せつけるように私の胸で寛ぐ雪狐と、それに本気で怒っている恭一郎様。
それを見るのも最後だと思うと、また涙が溢れた。


《……行きましょう。今なら、騒ぎにならずに済む》


涙を乱暴に拭くと、伸びてきた手に止められる。
そして、どちらからともなく繋ぎ、頷いた。


(……ごめんね、長閑)


行くんだ。
二人でいられる世界を信じて。