「せめて、夜が明けてからにしろ。嫌だと言っても許さぬ」


気をしっかり持たなければ。
背中が下になっていることに、今更慌ててジタバタともがく。


「でも、もしかして夜に開くかもしれないじゃないですか。ほら、月の光に照らされて……とか。……んっ」


適当なことを言う口を塞がれ、成功するとは思えない抵抗を試みる手を捕まえられる。


「あんな場所に月光など射さない。同じ暗がりなら、屋根がある分ここの方がずっとましだと思うが」

「な、何言ってるんですか……っ」


今度は力一杯押し返したのに、いつになく強引に封じ込められる。
苛立つほど、焦るほどに呼吸が難しくなって。
もがけばもがくほど、深く捕らえられる。
あっという間に力の抜けた私を見下ろし、やれやれと息を吐いた。


「……いるなら止めろ。下世話な狐め」


(……え!? )


《ふふ。どうせ貴方は、姫に手酷い真似などできはしない。姫に好かれていると知ってからは、余計に甘いようですね》


起き上がった恭一郎様の視線の先には、暗がりでも分かるほどニヤリと意地悪な笑みを浮かべた雪狐がいた。


(……でも、そうなんだ)


確かに、最近の恭一郎様は甘い。
私に甘くなかったことはないと思うけれど、それでもやっぱり甘くなった。


「ふん……ま、好きに解釈してくれて構わないが。お前が油断してくれた方が、私としても楽しめる」


仰るとおり、雪狐の登場に私はすっかり油断していた。


「普通、そこは油断せずに万全の態勢で臨んでほしいと言うところじゃ……っ」


何に、と言われても困る。
恋人同士のやり取りには、適していない表現だとも思うけれど。


「なぜだ。隙を突けるのであれば、突けるに越したことはない。弱味もまた然りだ。お前相手でも、それは同じこと。私の性格については、知ったうえで受け入れてくれたものだと思っていた」

「~~っ、あなたの性格はよく知ってますけど……! せめて、雪狐が来てくれた理由くらい、訊いてみません? 」


そうとも。
もちろん、そんなの知ったうえで好きになった。
癪だから絶対言わないけれど、真っ赤になった私の反応に満足したのか、それともそれこそ彼に知られているのか。
やっと、私を解放してくれたのだった。