「今考えても、どうしてだか分からない。父上も母上も、お前を抱えた私を疑わないばかりか、養子として迎えてくださった。怪しい風貌の、無知では済まないほどこの世界の何も知らない子供を」


私を助けてくれた子だ。
温かく迎えてくれた両親が誇らしい。


「二人にはいくら感謝しても足りないし、本当に両親だと思っている。だから、せめて、お前のことは兄として見守ろうとしたのに……恩を返すどころか、仇なすことになってしまった」

「仇だなんて、二人とも思っていないと思います。だって、母様は相手があなたでとても喜んでいたもの」


渋る兄様をけしかけたのも、すべて知ったうえで、ずっと私たちを見ていてくれたからなのだろう。


「一彰と会ったのも、その後だったんですね」

「ああ。神隠しに遭ったお前を一彰と見つけたと言ったが、あれは嘘だ。あいつは、得体の知れない私の話を信じ、手助けをして、もう何も起きないようにと裏庭に供え物まで。……本当にお前たちが恋愛関係になれば、私は兄のままだったかもしれないな」


それは、異世界を行き来するよりあり得ない話だ。
兄であった人を好きになるよりも、ずっと。


「長閑はお前に付くには、まだ小さかったからな。それから更に後になるが、お前の記憶があちこちに飛ぶのも無理はない。実際に、本当の友人ができたお前は、二人を裏庭に誘っていたしな。断られてはいたが」


長閑の名前が、殊更胸を締めつける。
彼女と出会ってからの私は、本当に満たされていた。
あんな裏庭で遊ぶのなんて嫌だと、断ってくれる二人が大好きだったから。