そうだ。
私を送り届けてくれた後も、恭一郎様があちらの世界に残った理由。


『それでもいいよ。忘れてたけど、最初はそうしたくて願ったんだ。まさか、本当にこんなことが起きるとは思わなかったけど……俺、さゆといたい。さゆには元気を貰ったから……少しは返したいんだ』

《……致し方ありません。姫の容態は一刻を争う。ただし、条件があります》


――生きなさい。少しでも長く。


《あの方ならば、姫のことも貴方のことも許してくれるでしょう。この世界と比べたら、あちらは技術の面では比べることもできぬほど劣る。それでも、貴方にとっては生きる糧となると言うなら、それを証明してみせなさい。……でなければ、私が許しませぬ》



・・・


「雪狐の出した条件は、もう果たしたと言っても許されるだろう。ここまで長らえたのは、奇跡としか言いようがない」

「……まだです……!! それに、奇跡なんかじゃない。あなたが……」


生きようとしてくれたからだ。
側にいてくれたから。
あの世界で治療を受けていたら、もしかしたら完治していたかもしれないのに。


「……それから、裏庭から邸へと向かう途中、あの方に出会った。あちらにいたのは僅かな時間だったが、父はお前を幾日も探されていたのだと思う」


父様。
あの後少し経ってからになるのだろうか、亡くなってしまったから、私に残された父の記憶は少ない。
でも、兄様はすごく父を尊敬していると。
恩義を感じていると、常々言っていたっけ。

家族が増える――夢で母様が言ったことを、私は完全に勘違いしていた。
それは、異世界から現れた、恭一郎様のことを指していた。
「兄ができた」のではなく、あの日、夢の男の子が兄という立場になったのだ。