・・・



「閉じかけていた扉を、私は無理に抜けた。お前を抱えたまま」


神隠しの真相。
想像とは違ったけれど、やはり悪いものなどではなかった。


「気がつくと、私は元の世界の寝台の上だ。……お前と一緒に。うなされるお前と、すぐそこまで迫った誰かの足音に焦った私は、側にあった解熱剤をお前に飲ませた。……だが、耐性のないお前には、それはあまりにも強すぎたのだ」


うっすらと記憶が蘇ってくる。
不思議な建物だ。
言われたように、そこは随分暖かい。
でも、本当にあちらにも冬はあるのだ。
だって、目につくものすべて、こんなにも真っ白なのだから。


「……本当に恐ろしかった。私はお前を失いたくないあまり……殺しかけた」


そんなことない。
恭一郎様だって、まだ幼かったのだ。
私を助けようとしてくれたのだし、実際、私はこうして生きている。


「だが、私はそのことで思い知った。自分がどれほど、勝手な愛情をもっていたのか。この想いが、お前にとってどんなに害悪であるのか。……接触するべきではなかったと。……でも」




・・・



《大丈夫、まだ間に合います。姫のことは、何があっても助けると誓いましょう。だから、帰らねば。申し上げたように、皆が貴女を待っているのです》


そうだね。
きっと、母様も探してくれている。
でも、でもね。
私、やっぱり――。


『……さゆ』


どこにそんな力があるのか、私の指はまだ彼の着物を捕らえていた。


『……俺も行くよ』

《……恭一郎。しかし、それでは……》


カタカタと震えながら、私は安心感に包まれていた。
一緒にいてくれる。
彼がそう言ってくれたからだ。


『だって、さゆはまだ、俺を必要としてくれてる。向こうに着いたら、さゆの家族にちゃんと謝るよ。信じてもらえないかもしれないし、許してもらえないかもしれないけど』

《そういうことを言っているのではありません。如何に私とて、間を空けずにそう何度も術を使えないのです。それでなくとも、最近は力を使いすぎていた。次にあちらとこちらを繋いだら、しばらくは難しいかもしれない》