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「……そう言って、私は散々雪狐を困らせた。幸い、お前は私のそういう醜いところは、記憶から消し去ってくれていたがな」


そう言って、少し恥ずかしそうに笑う。
恭一郎様のその顔が、今になって嘘のように夢の男の子と重なる。


「醜いなんて。でも、どうしてなんでしょう。私が恭一郎様と過ごした記憶では、あの母様に紹介された日が一番古いものだとばかり思っていました。その後は、もう既に成長された兄様の姿で……」


そういえば、私の中に恭一郎様が成長していく過程はすっぽり抜け落ちている。
最初から、この大人の男性だったと言えば言い過ぎだが、そう表現したくなるほど彼の少年だった姿が思い出せないのだ。


「それだって、最近思い出したのだろう? いや、いいのだ。私はそれで随分助かったし、そう仕向けたのだからな。それに、熱のせいもある。あの日、生死を彷徨ったのは、私ではなくお前だったのだから。本来なら、何もかもすべて忘れてしまっても仕方なかった」


それに不思議だ。
夢に見た彼は、駄々を捏ねる私に困り果てながらも言い聞かせていた。

『また逢えるよ』

そう、あのおまじないをして。
少なくとも、けして私を拐ってしまおうという様子は感じられなかったのに。


「お前は、昔から騙されやすい。いつだって、私の言い訳や取り繕ったものをそのまま信じたりして。私はそんなお前が可愛くて、正直狂いそうなほど腹立たしくて……愛しかった」

「あ……」


翳したままだったバレッタを、私の手に乗せてくれた。
これは、本当に女児用なのだろうか。
それにしては、随分と豪華に見える。
真ん中には赤い石がキラキラしているし、周りは雪のような白銀がこちらも同じく輝いている。


「言っておくが、玩具だぞ。まあ、あの時の私には手に入れるのも一苦労だったが。……恥ずかしくて」


まじまじと見つめていると、照れくさそうに少し早口になる。
それでなくても、外出は大変だっただろうに。
私の為に選んで、求めてくれたのが嬉しい。


「あの出来事がなければ、私は本当にお前を拐っていたのだと思う。これまで何度も言った言葉だけは本心だ。もう二度と、あの場所にお前を連れて行かない。夢の男など、お前の中から滅してやりたいと」


掌に乗せた思い出と、今感じる愛情。
どちらも手離せない私は、欲張りだ。
どうしたものかと悩んだのがバレたのか、恭一郎様は苦笑して、でも悲しそうに話を続けた。