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また会えて大喜びする私を見て、彼はクスッと笑った。
言われてみれば、その顔は意地悪にも見えるかもしれない。


『さゆは可愛いな。本当に、何も知らないんだ』

『……また、子供扱いする』

『だって、子供だもの。でも、俺は、さゆのそういうとこが好きだよ』


ああ、本当だ。
大人なった彼を彷彿させる、悪い顔。
どんなに単純だと言われても、好きだと言われれば嬉しくてはしゃいでしまう。


『俺が悪い奴だとは思わないの? 本当は、さゆを拐う為に優しくしてるのかもしれないよ』


相変わらず、彼の言うことはよく分からない。
でも、今度は私のそれに対する答えは決まっていた。


『それでもいいよ。ここで一緒にいられないなら、さゆを違うところに連れてって』

『……さゆ。どこでそんなこと覚えてくるの? 』


心から自分の言葉で伝えたつもりだったのに、どうしてそんなことを言われなくちゃいけないのだろう。
拗ねる私に、彼はまた小さく笑う。


『……ま、いいや。それもいいかな? あっちは、ここよりも温かいし』

『あなたのところは、冬でも暖かいの? 』


裏庭は、確かに冷える。
でも、彼と隠れて会うには最適だった。
なぜだか、彼は光の扉を通ってここに現れるし、実は最近ちょっとした騒ぎになっているのだ。
あの我が儘姫が、友達を一切引き留めなくなったと。

彼の存在を口にしてしまえば、きっともう会えなくなるに違いない。
だから、私は当時、一人とても大きな秘密を抱えている気になっていた。

誰にも言えない、内緒の逢瀬。