『失礼ね。さゆは小さ……いかもしれないけど、今だけだもの。それに、れっきとした……』


(れっきとした……なあに? )


姫君、ではない。
女性というのも、おかしい気がする。
一体、私は何者だというのか――自分で言っておきながら、幼いながらに混乱した。


『……そっか。さゆ』


知らない男の子に、名前を教えてしまった。
恥ずかしさと後ろめたさ、それから、その呼び方がとんでもなく甘く聞こえて、真っ赤になってしまう。
何より、彼はどうやら何となくでもこの気持ちを理解してくれた気がして、すごく嬉しかった。


『そんな格好で寒くない? 風邪引くよ』


確かに、彼の服装は、私よりもかなり温かそうだ。
私も特別薄着ではないが、これはどうやって織られているのだろう?
何かの毛なんだろうか。
好奇心に負けて触れてみると、ふわふわでとても温かい。


『ほら』


ふわりと首に巻いてくれると、もっと。


『だめだよ、あなたが……』

『……あ、また光ってる』


指した先には、確かに先程とよく似た光が生まれようとしていた。
ピカピカした光は、時間がないのだから早くしろと言っているみたいだ。


『それ、今度返して。……約束』

『……っ、う、うん!! 』


うん、約束。
きっと、また会いに来て。

彼は、これまで会ったどの友達とも違う。
いや、この時はどうやら長閑ともまだ出会っていなかったから、友達と呼べる友達は一人もいなかった。
だから私も意地になって、どんどん我が儘になって。
こんな姫君なだけの自分が、大嫌いだった。
そんな私に媚びることも見下すこともしない、対等に見つめて注がれる視線に私は一瞬で虜になっていたのだ。

また逢いたい。
絶対、絶対――約束。


『また、すぐにさゆに逢いに来て――』