「梓、起きろ!梓、梓!」





低くて少しだけ掠れた声に揺さぶられて、ゆっくりと瞳を開けると、蓮の顔が目の前にあった。





「おはよ」





瞳を合わせたまま呟いた蓮に、おはよ、と返すと額に柔らかい唇が当たった。





まだ頭がハッキリしていないせいなのか一瞬、何が起こったのかわからなかった。





顔は一気に熱を帯びて、下を向くと蓮がクスッと笑って、頭を撫でて、





これ着ろ、とTシャツを布団越しの裸の私の身体に置いた。





小さく頷くと、頭に置かれた手を優しく滑らせて、立ち上がってリビングに向かった。







渡された大きなTシャツと下着を身に付けて、リビングに行くと並べられていた朝食が目に入った。






丸いパンのサンドイッチに、卵焼きにウィンナー、ポテトサラダ。






「ボーッと立ってないで、早く座れよ。冷めるぞ?」






マグカップを持った蓮に言われて、ソファーとテーブルの間に座るとコーヒーの入ったマグカップが置かれた。






「ありがとう、いただきます」






まず、卵焼きを口にすると甘い懐かしい味にジワリと目の奥から、熱いものが込み上げた。






「…蓮…この味…」





「ああ…甘い卵焼き。お祖母ちゃんの思い出の味なんだろ?」






そうだけど…そうなんだけど…覚えててくれたの?




たった一度だけ、話の流れで口にしたことを。




だからかな、目の奥の熱いものは一気に溢れて、頬をつたった。





「お祖母ちゃんの味に近かったか?」





それを拭いながら、大きく首を振ると、よかった、と。






「俺は食べたことはないから、俺なりの甘い卵焼きを作ってみた」





「美味しいよ、ありがと」





泣くな、と泣きながら食べる私の涙を拭って。





また作ってやる、優しく頭を撫でてくれた。





泣き虫だった私にお祖母ちゃんもこうして撫でてくれた。





泣き止む気配もなく、私は朝食を泣きながら食べ終えて、嗚咽交じりに、





ごちそうさま、と蓮を見ると優しい表情で笑っていた。