「友恵……大丈夫か?」

松田くんの両腕に抱えられて、友恵さんは小さく頷いて。


「蓮さんが……居てくれたから……」


そうか、と。

蓮を見て、ありがとな。


「お前と大輔が、ずっと梓の側にいて守ってくれたんだろ。ありがとうは俺の台詞だ、ありがとう」


「蓮……ごめん。梓ちゃんの手をずっと握ってた…」


今回だけ許す、と蓮は小野くんの肩を叩いた。


俺は抱き締めちまった……わりぃ。


「梓の泣き虫が出たんだろ。今回だけ裕司も許す!」


松田くんの背中を叩いた蓮に、ごめんね。


「心配かけて泣かせたのは俺だからな……俺がごめんな、だよ」


「帰ったら抱きしめてね!」


「あぁ。一晩中、抱きしめてやる!」


はいはい、ご馳走さま。

小野くんが呆れ気味に言って、松田くんから預かっていた鍵で車の鍵を開けて。

後部座席のドアを開けて、友恵さんを抱えた松田くんを促して、お金を払ってくれた小野くんが戻って来てから、帰りは蓮がハンドルを握る。


「友恵ちゃん、今日は裕司の家でいい?」


「はい……裕司くんと居たい…」


「わかったって事で先に裕司のアパートな?」


了解!と言った蓮が、一瞬だけ顔を歪めた。

大丈夫?


「腕を思いっきり、蹴られただけだから大丈夫だ。包丁くらいは握れるから心配すんな」


「よかった!」


蓮が包丁を握れないくらいの怪我なんて、一時期だとしても耐えられない。

蓮の心までも傷つけてしまうから。


「ところでさ、蓮の持ち物は全部あるか?取られたりしてない?」


「全部、あるよ。鞄はしっかり者の梓がデスクの椅子にあるのに気付いて、持って来てくれたからな。その中にスマホも入ってる」


「取られてなかったのか?」


「取られてないよ。最初から、暗証番号が必要な鞄のポケットに入れてたからな。それに、鞄の中身で必要なもんなんて誓約書くらいだろ?」


「たしかに。さすが、蓮は抜かりないよ!誓約書が一社くらいなくても、どうにかなるし…もう全てが白紙になるだろうな」


なるほど!

この一件で、小林夫妻は逮捕される。

他にも何かあるって小野くんのお義父さんが言ってた。


「おい!じゃあ、蓮の労力は無駄じゃねぇか?」


松田くんが、私もふと過った事を言ってくれた。


「無駄だっていいんだ。結果的に白紙になるならな」


そうだね、蓮らしいよって言おうとすると。


かっこよすぎだろ、と松田くん。

お前らしいよ、と私と同じ事を言ってくれた小野くん。


それよりも……


「友恵さんは?」


後部座席を振り返って、松田くんに訊ねると、寝てる、と。


「安心したんだね。帰ったら手当てしてあげてね。友恵さんの下着とか買わなきゃね!」


「この時間に開いてる店で売ってる所あるか?」


「駅前のドラッグストアーなら、この時間はまだ開いてるし買えるから寄ってくれる?」


「わかった。俺の財布、鞄の中に入ってるから」


蓮に言われてはじめて、私が家の鍵と車の鍵以外は持たずに家を出た事に気付く。


「うん、財布もスマホも家に置いてきたんだ……」


「だろうな……そうだろうと思ったよ」


小野くんが、あの時は慌ててたからね、と笑って。

俺も店の中まで着いてくよ。

ありがとな、と言った松田くんは愛おしそうに友恵さんの頭を撫でた。