まだ暑さの残る夜ーーー。


「明日、行きたい所あるから付き合ってくれ」


シャワーを浴びて、簡単に有り合わせでご飯を食べて、テラスでビールを飲んでいる時に。

蓮が言い出して、お昼前に連れて行かれたのは、横浜みなとみらいにあるジュエリーショップだった。


「ここ……って……なんで?」


「結婚指輪、まだだろ?」


躊躇する私に蓮は柔らかく笑って、繋いでいた手をギュッと強く握り直してくれる。


「なんで、ここのがいいってわかったの?っ顔してるな」


誰かに話した記憶もなければ、蓮に話した記憶もない。


「今、梓の婚約指輪は…ここのだ。気づいてると思ってたんだけど…」

気づいてないみたいだったから、敢えて黙ってた。


「梓がマリッジで…ここのカタログを素敵って見てたから…婚約指輪も結婚指輪も、ここでと決めていて…選びに来た時から、店の人と話はしてあった。1週間くらいかかるってのは聞いたから今日、取りに行けるように連絡入れておいたんだ」



気づいてなかった……全く。

あの時はものすごく嬉しくて。


わざわざ、私の呟き一つも見て、聴いて選んでくれていたこと。

考えていてくれたこと。

1週間後に休もうと言ってくれたのは、指輪を早く取りに来るためだったんだ。

全てが重なって、すごくすごく嬉しくて泣きそうになる。



「店の前で泣くなよ。二人になった時に泣いてくれよ」


苦笑いの蓮に、ごめん。嬉しくて、と言うと。

わかったわかった、と私の目線に合わせて屈んで、堪えて瞳に溜まっていた滴を、指で掬ってくれる。

屈んだまま頭を撫でて、行くぞ。


笑顔で頷くと、また手を繋いでくれた。




蓮が選んでくれていた指輪は、水鏡と名付けられた指輪。

蓮がくれた婚約指輪とも、セットで着けることが出来る。



みなとみらいで、買い物をして帰ってからーーー。


結婚指輪を嵌めてくれて、私も蓮に指輪を嵌める。


「鏡のように美しく映る、静かな水面を表現した結婚指輪、水鏡。光を受けて煌く側面のデザインは、水面に輝く一筋の光を表現していて、ふたりの美しい未来を示してるらしい」



二人で美しい未来にしような。

はいっ!


蓮の太腿に座って、お互いの腰に腕を回して。

私を見上げる蓮の額にキスを。

座り直した蓮は、優しく微笑んで唇を重ねてくれた。