「寝坊したからって仁乃が俺の弁当作らず自分の弁当だけ作るとか、ありえないから」


壱は私の濡れた頬を学ランの裾でぬぐって、結局勝手に私の鞄をまさぐりながら。


「まー仁乃、そもそも寝坊なんてしてないけど」


そう言った壱の手には、まだお弁当ひとつぶんの重さのあるミニトートがあって。

壱の言ったことが全部正解で、悔しさと恥ずかしさで呼吸困難になりそうで、俯くと。



「食べるよ」



壱は長い睫毛を伏せて、私の机の上でお弁当箱を開け、私の返事も待たずにそれを食べはじめる。


今日の狂気的おかずは鶏のシロップ煮。

結構、時間かかった。



――『あの子が壱のことを想って作ったお弁当だよ。たぶん時間もかかったよ』



壱にそんなこと言いながら、心のどこかで思ってた。



私だって、壱のこと想って作ったけど。

時間だってかかったけど。



でもそんなこと言えなくて。

だってただの、幼なじみだから。

壱のことを純粋に好きな、サラサラ女子と私は違うから。