壱から話しかけてよ…。
鞄のなかをまさぐっていた指先がミニトートに当たって、ぐ、となる。
壱のぶんのお弁当が入ったミニトート。
保冷剤も入れてないし、もうだめかも。
ぼんやりそう思ったら、あ、また泣きたくなってきた。
…別に間違ってなかったのに。
私が言ったこと、私がやったこと。
幼なじみとして。
このお弁当は正しく壱に食べられずにここにある。
はずなのに。
だめだ、泣きそう。
きゅ、と目を閉じたその時、壱がガタッと音を立てて前の席から立ち上がって。
ずんずん教卓のみんなのほうへ歩いていったと思ったら。
「悪いけど今日はほんとに立てこんでるから、お前らさっさと散ってくれない」
抑揚のない声でみんなにそう言った。
お前らって、教師(なっちゃん)もいるんだけど…とか考えていたら涙も少しひっこむ。
なっちゃん含む4人は少しびっくりした顔をしながらも、は~いといい返事で、壱の要望どおり教室からさっと散っていった。