いつもの長閑な中庭のベンチ。


壱は右手からぶら下げたお弁当をぼんやり眺め、横目で私を見た。



「仁乃、食べる?」


…言うと思った。


「食べるわけないでしょ」

「なんで」

「なんでって…壱がもらったものでしょ」

「押しつけられただけだけど…」


淡々と言う壱に、私は少しむっとしてしまう。

壱には少年少女が持つべき倫理観ってやつがちょっと欠けている。


「あのね、これ、あの子が壱のことを想って作ったお弁当だよ。たぶん時間もかかったよ。受けとったからにはちゃんと食べてあげないと」

「でも俺、仁乃のあるし」


あっさりそう言われて。


咄嗟に、ごめん!と言ってしまった。



「今日、寝坊して壱のぶん作れなかった」



壱とは逆側の右隣に置いているミニトートをそっと自分の身体の影に隠して言う。



「自分のぶんはあるんだけどね」



焦って、自分のお弁当箱だけをそこから出して笑うと、壱は横目で私を見て、はー、とため息をついた。