なに、と思いながらも、壱の目の上で軽くセットされた前髪が少し、目にかかりそうなのが気になって。
払ってあげたくなって手を伸ばそうとしたら。
「…嫉妬くらいすれば」
「え」
私は壱に触れかけた手を止めて、首を傾ける。
「…でも名前も知らないんでしょ?」
「どこで出会ったのかも知らない」
「憶えててあげなよ…」
「なんで俺の名前知ってんだろうね」
「どっかであんたが名乗ったんでしょうが…」
あるあるだな。
壱は人の顔と名前を覚えるのが昔から苦手だ。
クラスメイトでフルネームが言えるのは、光太郎くん・理沙子・新田ちゃんの3人くらいなんじゃないか。
記憶力が悪いというよりは、興味のないことを一切しない性格だから。
そんなことを考えながらお弁当を食べ続けると、隣で壱が長いため息をついた。
なんのため息…?
そしてまた、昼休み終了のチャイムが鳴る。
それにしてもこの実験って、本当なんなんだろう…。