頭の中にローとの思い出が駆け巡る。そのたびに雪は泣いた。

その後も前は雪が涙を流してしまうような歌ばかりを奏で、雪は何十年分の涙ではないのかと思うほど泣いた。もう目は真っ赤に腫れてしまっている。

「前くん、ありがとう。ちょっとスッキリした。ハンカチは洗って返すね」

雪がそう言いながら最後にあふれ出たままの涙を拭うと、前は「よかった。役に立てて」と笑う。その顔に雪の胸がギュッと音を立てた。

「それじゃあ、次は元気になれるような曲を奏でようかな!」

前はそう言った後、またフルートを奏で出す。優しい音色だ。しかし、先ほどの演奏に比べると明るさが混じっている。

「Mr.music!」

雪は目を輝かせる。好きなボカロの一つだ。前は演奏しながらニコリと笑い、雪は小声で歌を口ずさむ。前の優しさに心がどんどん温かくなっていった。

そしてこの時、雪は前に恋をしたのだと気付く。「ありがとう」と雪が言い、「どういたしまして」と笑った前の顔が忘れられなかった。