それから、みんなは松浦のことを ”裕” と呼ぶようになった。私を除いて。

今まで男子でも名前で呼ぶことが多かったが、彼のことを名前で呼ぶことはできなかった。たぶん、軽々しく名前で呼ぶことが出来なかったのだろう。そして、少しだけでも特別でいたかった。そんな気持ちがあったのだと思う。

ある日、部活の休憩時間に女子だけで集まって話していた。所謂女子会だ。先輩も含めて話していたのだが、一人の先輩が恋バナをしだした。
〈弟から聞いたんだけど、裕って好きな人いるらしいよ。合唱部の子だって。〉
弟とは、松浦と一緒に見学に来ていて合唱部に入ったおにぎりが似合う子だ。

松浦の好きな人が、この中にいる。
みんな誰なんだろうと話し出した。
そして、みんなが私の顔を見た。
いや、そんなわけないでしょ。ろくに話してもいないよく分からない女子を好きになるはずがない。

気づいたら、彼が女子の輪の中にいた。