音を立てないように制服へ着替えたあと、1階へ下りる。

リビングに近づくにつれ、いい匂いがしてきた。

和食のいい匂い。



「あ、」



制服姿の会長がカウンター奥のキッチンに立っている。

私に気がついたのか、フライパンを握っていた会長が振り返った。



「お、おはようございます!」

「おう。……おはよ」



沈黙が流れる。

会長もフライパン持ったまま、動かないし。

私もカウンター越しから会長を見つめたまま動けない。

会長が私から視線をはずさないから、私も視線をはずすことが出来ない。


なにか、しゃべらなきゃ。


思い浮かんだのは、髪の毛を乾かしてもらったこと。

結んでいないストレートの髪の毛にそっと手を触れる。

恥ずかしさを隠すように、髪を撫でる。



「昨日。髪の毛、乾かしてくださって……、ありがとうございました」



反応がない。

フライパンを置く音が、静かなリビングに響く。

フライパンを置いたと思ったら、会長はカウンターを回って近づいてくる。