「北澤」



不意に会長が私の名前を呼ぶ。

これからなにを言われるのか、すごく怖かった。

怖くて、会長の顔をまともに見ることができなかった。


返事もしない私にしびれをきらしたのか、会長は言葉を続けた。



「理樹とうまくやれよ」



その言葉を理解するのに時間がかかった。


『理樹とうまくやれよ』


それってどういうこと?

なにをうまくやればいいの?


会長の言っていることにハテナマークを浮かべる私に、会長は痛々しく微笑んだ。



「お前には理樹がいるもんな。……今まで悪かったな」



その表情は悲しげで、切なく思った。



「なんで理樹くんが出てくるんですか」



聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声。

震える声を隠すように必死だった。



「付き合っているんだろ」

「えっ……」



会長はその言葉を残して、私に背を向けた。

2階へ続く階段を上っていく。

トン、トン、と重たい足音。


会長を呼び止めればよかったのかもしれない。

だけど、呼び止めたところでなにを話せばいいのか分からなくて。

私はその場に立ち尽くすしかできなかった。