「喧嘩したの?」

「してないよ……」



喧嘩だったらいいのに。

そうしたら、『ごめんなさい』って謝って仲直りができるのに。


今回の件については、誰も悪くないと思うから。

誰も動けなくなってしまうんだ。



「じゃあ、なにがあったのっ!?」



夏樹ちゃんが顔を近づけてくる。

心配してくれているんだな、と伝わる。

妹みたいな存在に心配かけるなんて、私ってなんなんだろう。


うつむく私。

なにか答えなきゃいけないのに。

なにも答えられない……。



「美雪ちゃん? お兄ちゃんとなにがあったの?」

「……なんも、ねぇよ」



答えられない私の代わりに、答えてくれたのは会長だった。


いつの間にか洗面所から戻ってきていたみたいで。

不機嫌そうな顔で立っていた。


会長がリビングに戻ってきたことは夏樹ちゃんも気づかなかったみたいで、驚いている様子。

だけど、すぐにいつも通りの夏樹ちゃんに戻った。



「何もないって言うけど、空気がいつもより暗いっていうか……」



私は気づかれないように頑張っているつもりでも、夏樹ちゃんにはこの空気が分かってしまうんだね。


心の中で夏樹ちゃんに謝る。

ごめんね……。