「思い出?」

「はい。……お母さんが教えてくれたんです」



話していると徐々に落ち着いてきた。


うん。

普通に話せるまで呼吸が整った。



「あのレストランで初めてお父さんとデートしたの、って」

「そうか」

「だからっ。……あ、いやっ」



話しすぎた。

お母さんとお父さんの思い出の場所なんです、で止めておけばよかった。


両親のデート場所を、押し付けるみたいなこと……。

嫌がるよね……。


自然と、会長の首にしがみついていた腕の力が緩む。



「北澤は、お母さんとお父さんが大好きなんだな」

「えっ……」

「好きじゃないと、選ばないだろ」



お母さんと、お父さん……。


半分、家出状態で出てきてしまった。

今頃、心配しているだろうか。

ちゃんと、いつもみたいに笑っているのかな。