後ろにさがりたいけど、私の手には、まだ焼いていないハンバーグ。

そんなハンバーグを持ちながら、キッチンを移動することなんてできない!


私は、会長の足が止まってくれることを、ドキドキしながら待っていた。


願いが届いたのか、会長は私から1メートル程度離れたところで足を止めた。

それでも距離的には近いんですけどね。



「な、なんですか……」



私は平然を装いながら、声を振り絞る。

だけど、その声は少し震えていた。



「お前さぁ」

「……はい」



会長が含み笑いをしながら、腕を組んだ。

その姿さえ格好いいと思ってしまう私は、“恋の病”に陥っているのかもしれない。



「出掛けたいんだろ?」

「えっ、」



なんのことでしょう……。


そんなの聞かなくても分かっている。

会長には全てお見通しだ。


私が会長と出掛けたいと思っていることを分かっていて、あえて、そういう言い方をするんだ。