「あー……ゴリ松のやつ、あんなに嫌味を言わなくてもいいだろ。謝ったじゃないかよ」


一限目の途中で教室に入って、現国の是松(これまつ)先生(34歳女、独身)に散々小言を言われて、疲れ切ってしまった。


休み時間になって机に突っ伏して、ため息をつく。


「お母さんが起こしに来た時に起きないからじゃない。葵は本当に学習しないよね。どうせ『後5分』とか言ったんじゃないの?」


前の席に座っている灯が、そんな俺をバカにするように尋ねた。


「ぐぅぅ! 図星すぎて何も言えない!」


この灯、名鳥家の次女で、俺と同じクラスにいるから、家でも学校でも顔を合わせる女の子だ。


「いやあ、葵も運が悪かったよなぁ。ゴリ松、お見合いに失敗して機嫌が悪いみたいだぜ? これで何回目だ? 8回目か」


隣の席の神凪宗司(かんなぎそうし)が、指折り数えているけど、俺にとってはゴリ松が何度お見合いに失敗していようがどうでもよかった。


「ああ、そうだ。葵、あんた今日は真っ直ぐ家に帰って来なさいよ? いつもみたいに遊び歩かないでさ」


「そうよそうよ。葵がいなかったら、私寂しくて泣いちゃうんだから」


灯の言葉に付け足すように宗司が言ったけれど、灯が物凄く冷めた目で宗司を見ている。