「あ、あの野郎! 弥生を俺達と仲良くさせて、情が移ったところで決闘かよ! 汚ねえ……汚すぎるぜクソ野郎!」


最初からそれが目的だったというのなら、俺達はまんまと弥生の演技に騙されたということになるな。


でも……蘭子に弁当を渡された時の涙と、話していた時の笑顔まで演技だったなんて思いたくはない。


「どうするの。決闘するか、無視してこの人数と戦うか。言っておくけど、私を連れて逃げるなんてことは考えないでね。私は……葵を殺すことに抵抗なんてないから」


心は交わっても、道は交わらない。


弥生の行動は、弥生なりの覚悟なのだろう。


その覚悟が、俺達の道とは違う道を選んだんだ。


「わかった。俺が決闘する」


日本刀を抜いて、弥生にその切っ先を向けた。


「葵……弥生……」


蘭子が心配そうな声を出すけど、俺は微笑んで「大丈夫」と小さく呟いた。


少し、弥生の覚悟に触発された自分がいたと言ったら、大袈裟になるかな?


俺はこの街に、父さんと姉さんを救う為にやってきた。


だけど、そう簡単にはいかずに、姉さんを見殺しにしてしまい、灯までいなくなって父さんは我を忘れて暴れている。


何一つとして上手く行かない。


それは、俺に覚悟が足りなかったんじゃないかって。


何としてでもって想いが足りなかったんじゃないかって思えたから。