「おい、おっさん。こんなとこフラフラ歩いてると危ねぇぞ。どこに行くつもりだよ」


電車の横を歩いている男性にタケさんがそう尋ねると、男性は驚いたように顔を上げて。


「家にねぇ……家に帰りたいんですよ僕はねぇ。美人な奥さんが待ってるから、早く帰りたいんだけど……僕の家がどこにあるか、わかりませんか?」


ニヤニヤと笑いながらそう尋ねた男性に、タケさんはあからさまに嫌そうな顔をした。


話の内容とか、風貌とかでそんな顔をしたわけではないというのは俺にもわかった。


この男性……臭いんだ。


それも強烈に。


「どこに住んでたのか知らねぇけどよ、両国を中心に直径5kmくらいは光の壁に阻まれて外には出られねぇよ。てか、まず適当にそこらのホテルにでも入ってシャワー浴びろよ、くせぇな」


何の遠慮もなく、言い難いことをズバッと言ったタケさんに、男性は数汚れた顔を向けてニヤリと笑った。


「そうなんですかぁ。でも、あれ? 家はどこだったかな……ここを真っ直ぐ行けば、家に着くのかな」


何かおかしいと感じてはいたけど、この人は精神疾患でもあるんじゃないか?


言ってることがよくわからないし、自分が今、どんな状況に置かれているかも理解出来ていないようだった。