何がなんだかわからない。


遊鬼は何かに怯えていたようだけど、一体何に怯えていたんだ?


そう思って、遊鬼が見ていた方向に顔を向けると……。


「え? こんな所に人?」


夕蘭が思わず口にした言葉。


線路の上を、茶色い外套のような物を頭から被り、ヨタヨタとおぼつかない足取りでこちらに向かって歩いている男性がいたのだ。


鬼か……と一瞬身構えたけど、角はない。


その代わりと言わんばかりに、伸びっぱなしのヒゲに薄汚れた衣類。


それがただの人だというのはわかったけど……不可解なのは影の色がないということだった。


「どの軍にも属してねぇのか。まさか、まだソウルウェポンも持たずにうろうろしてるやつがいるとはな」


PBSを開いて男をスキャンしたのだろう。


それでも、大した情報を得られなかったのか、すぐに閉じた。


「こんな鬼だらけの場所でどうやって今まで生きてたのよ。運が良いにしては良すぎるでしょ」


「一応、用心しておこう。それにしても遊鬼はなにに怯えていたんだ」


こんなホームレスみたいな人を恐れるのもよくわからない。


なんせ影に色がない、ソウルウェポンを持っていないであろう人なのだから。