姉さんのことがあってか、俺はうずくまっている鬼にそう尋ねた。


着替えた時にテーブルの上に置いたけど、なぜかポケットに入れて持ち歩いている社員証を取り出して、それを見せた。


「え、な、なに……鬼にまで知り合いがいるとか、結構引くんだけど」


「お、俺だって知らないよ!」


遭遇して戦って、一方的に忘れないって言われたんだけど、まさかこんな所で会うとは思わなかったからな。


「ギギ……ピ、ピヨ。忘れてない……」


顔を上げて、俺が差し出した社員証を受け取ると、それをポケットの中に入れた。


「それで、お前は戦うのか? 戦わないのか? どっちだ」


背中を向けた瞬間、攻撃をされてもかなわない。


それに、この鬼は他の鬼とは違って言葉を喋るし、まだ理性が少しは残っているような気がする。


姉さんみたいに、鬼化には個人差があるのだろうか。


「私は……戦わない。ピヨ、忘れてない」


「じゃあどっか行け。ここにいたら他の鬼と一緒に殺してしまうだろ」


俺がそう言うと、友里は起き上がって俺達から離れた。


「な、なんなのあれ」


「姉さんと同じ苦しみを味わってるのかもしれないな。鬼と言っても、元は人間だからさ」