「ほんと、惚れ惚れしてしまうくらい良い男だねぇ。決めた。あんたを食って、あんたの子を産んであげるよ。良い男は傍に置いておきたいからねぇ」


鬼がタケさんを見詰めながら手を上げると、周囲のビルの屋上に潜んでいた無数の鬼達が姿を見せたのだ。


「うええ。ちょっと、子供の前でクソ親父の子を産むとか言わないでよね気持ち悪い……」


「はっ! 実の娘よりも鬼の方が俺の魅力をわかってくれてるなんてな。おい、お前の名前はなんだよ。今度会ったらまた指名してやる」


いやいやいや、ちょっと二人ともこの状況わかってる!?


南軍突入前に見た、鬼の集団と同じくらいの数の鬼達が、俺達を見て牙を剥いてるんだけど!


「嬉しいわねぇ。私は『遊鬼(ゆうき)』人間の頃の名前は忘れたわ」


「遊鬼ちゃんね。忘れるまでは覚えておくぜ! それじゃあ、たっぷり生本番と行くかよ!」


吠えたタケさんが、電車の上に飛び乗る。


と同時に遊鬼がロングソードを取り出して、周囲の鬼達が一斉に線路の中に飛び込んで来たのだ。


「葵! 私から離れて戦って! 巻き添え食らうよ!」


「一人で大丈夫か!?」


「あんたが寝てる間、何もしてなかったと思うわけ!?」