「おや、私に気付くなんてなかなかどうして。大した男じゃないのさ。忍び寄って、気付かれないまま首を落とすくらいの自信はあったんだけどね」


その声に驚いて、タケさんよりも後方に飛び退いた俺と夕蘭。


電車の上には、まるで夜の仕事をしているような派手な服の女性……いや、角があるから鬼が、笑いながら俺達を見下ろしていた。


「くせぇんだよ。血の匂いをプンプンさせて忍び寄っても、すぐに気付くだろうがよ」


……そんなに血の匂いがするのか?


チラッと夕蘭を見ると、夕蘭も不思議そうに首を傾げてる。


「あはは、面白いねお前。何の用かはわからないけど、この先は通行禁止だよ。引き返すなら見逃してあげる」


鬼なのに……見逃すだって?


そう言えば南軍に入る前に戦った、扇子を持った鬼も、他の鬼とは違って感情があったな。


この鬼もあの鬼と同じだとすると……とんでもなく強いってことか。


「残念だけどよ、バベルの塔に遠足に行くんだよ。言葉を返すようで悪いけどよ、ここからすぐにいなくなるなら殺さずにおいてやる。それとも何か? お前も一緒に遠足に行くか?」


全くと言っていいほど物怖じせずに、鬼を挑発しているタケさん。


俺でもわかる。


いきなり飛び掛かられても、どんな攻撃をされてもいいように、神経を研ぎ澄ませているのを。