「母……さん」


隣で眠り続ける灯をチラリと見て、俺はベッドから起き上がった。


姉さんを失った悲しみは大きい。


未だに俺の心を蝕んで、隙あらば力を奪おうとしているかのようだ。


でも、あれは夢だったのか?


バベルの塔……両国にある白い塔と瓜二つだった。


それに、バベル。


何の話をしているのかわからなかったから、気にも留めなかったけど、拓真が津堂に「バベル」と言っていた気がする。


津堂は拓真に「ヴァルハラ」と言っていたはずだ。


「母さんが白い塔のある街にいたってことは、その街から出ることが出来たってことだよな。キングを破壊したのか? いや、バベルの塔に向かうって言ってた。まさか……な」


そう言えば、タケさんと父さんが話していた時に、白い塔のことを言っていたかもしれない。


願いは叶う……か。


もしかしたら、希望を捨てるにはまだ早いのかもしれないな。


「灯……俺、ちょっと行ってくるよ」


まだ完全に心が癒えたわけではないけれど、いつまでもこのままではいけないと、母さんが教えてくれたような気がする。


希望はあるという母さんの言葉がどこまで信じられるかはわからないけど。