「おまえ、昔から変わらないな。冷たいっていうか、サバサバしてるっていうか。まぁ、そういうところが気に入ってたんだけど。でも、偶然元彼と会ったら普通飯くらい付き合うもんだって覚えておいた方がいいんじゃねぇかな。社会人として」

足を止めて話す気もないので、歩きながら隣をチラッと見上げた。

「黒田は、ご飯に付き合ってもらえるかどうかは別れ方にもよるって覚えておいた方がいいんじゃない。人として」

嫌味を返したつもりだったのに、楽しそうな笑顔を向けられる。

「ははっ。〝黒田〟だって。昔は名前で呼んでたくせに、なんだよ、今更」

それだって、付き合っていた頃、黒田から頼まれたから名前で呼んでいただけだ。別れた今、名前で呼び続ける理由はない。

でも、それをわざわざ口に出して説明する気にもならず、無視することにする。

約十年ぶりに会った黒田は、よくも悪くも変わっていないように見えた。軽くて中身のない会話をずっと続けるところも、なんにでもヘラヘラと笑うところも。

黒田の適当さには、十年前、落ち込んでいた頃には少し救われたものだけれど、こうして改めて見るとただの締まりのない男にしか見えなかった。

冷たく返しても呑気に笑っている様子にイライラする。
そんな私の気持ちを察してくれるでもなく、黒田は未だにヘラヘラと笑っていた。