「でも、確かに桐島の言う通りだよな。俺にとってはいい友達でも、澪にとってはそうじゃない可能性があるって、一度懲りたはずなのに……ごめんな。俺、いつもそういうところがすっぽり抜けちゃって。今後気を付けるから」

顔を上げると、そこには兄の顔をする陸がいた。
関係で言えば兄だけど、小さい頃からのイメージがあるからか、陸を手のかかる弟みたいに思っていた。

だから、真面目な顔をする陸には思わず笑みがこぼれる。

「今までのことならもういいよ。終わったことだし。ただ、やっぱり知らない人と部屋にふたりでいるのは嫌だから、今後は気を付けて。あと、約束忘れるのやめて」

約束を忘れないと断言できる自信がないんだろう。
こうして感情がなんでも顔に出るところも私とは似ていない。きっと父親譲りだ。

陸は「……はい」と何か言葉を飲み込んだような返事をしたあとで、ずるずるとうどんをすする。

そして、お互い無言の時間が続いたあとで陸が「あのさ」と切り出した。

「澪、やっぱりまだ好きな男できない?」

陸の性格からは想像もできないほどに、慎重な声だった。
私を傷つけないように細心の注意を払った問いかけ。

陸の思いを感じながら、笑みを浮かべる。

「いない。でも、陸には関係ないよ。私の問題」

未だ過去のことを気にしている陸に「たぶん私、理想が高いんだよ」と明るく言う。
わざとらしいテンションに気づいたからか、陸も私に合わせるように笑みを浮かべた。