今までずっと強がってきた。

大丈夫じゃなくても大丈夫って言って、キツくても平気って笑ってきた。


でも無理なものが無理って言えたのも、本心で笑えたのも。

全部、新しい家族が出来てからだった。



「柚、───俺と一緒に帰ろう」



家に帰るのが楽しみになったのは初めてだった。

今日のご飯は何かなぁって、わくわくすることが毎日の日課だった。


新しいお母さんは「おかえり」っていつも笑って迎えてくれて。

私の好みの味付けに合わせてくれて。



「…お母さん…っ、怒ってない…?」


「怒ってないよ。いつも柚のこと心配してる」


「お兄ちゃんも、…怒ってない…っ?」


「いつも無理し過ぎるところには怒りたいけど、…怒ってないよ」



ぎゅっと掛け布団を握った拳に涙が落ちる。

「大丈夫、いつでも会えるわ」と、母は背中を撫でてくれた。



「…っ、かえる…、」



小さな小さな声。

聞こえたか聞こえていないかは、目の前の青年の表情を見ればわかる。



「明日、迎えに来るよ」


「え、帰っちゃうの…?」


「じゃあ今日帰る?」


「…うん」