「ねぇ、逃げ足早くない?」
すっかり安心して優雅に歩いていたのに、ひょっこりと隣に現れた神風くん。
ちょっと息を切らしていて、小走りできたのがわかる。
……なんでわざわざ。
ううん、神風くんはわたし目当てじゃない。
「女の子たちから逃げるためにわたしを使うのやめて欲しい」
そう、神風くんはわたしを使っているだけ。
そのせいでどれだけの女の子たちから睨まれていることか。
「嫌って言えんじゃん」
「……は?」
神風くんの乱れていた呼吸は既に治まっていて、カバンを右肩に担ぐように持ちながらだるそうに言う。
そんな態度のせいか、意味のわからない発言のせいか、モヤっとするわたしの心。
「一体何の話?」
「学祭の買い出し。ひとりで全部買って持って来れると思ってんの?」
「それは……」
わかってるよ。
ひとりで全部なんて無謀だって。
買うことはできたとしても、学校まで持って行くには何度往復しなければいけないことか。
「なんで嫌なものは嫌、無理なものは無理って断れないわけ?」
さっきまでずっと思っていたこと。
なんでちゃんと言えないのか。