「ねぇ、暴走しすぎ。 合唱曲なんだからちゃんと指揮見てくれないと」
どうやら神風くんは、わたしの視界の外で伴奏に合わせて指揮を振っていたらしい。
「神風くん、好きに弾いていいって言ったじゃん」
せっかく弾ききったというのに、文句を言い始める神風くん。
「思いっきりとは言ったけど、好きななんて言ってない」
「……やっぱりムカつく」
わたしだって合唱曲となれば、指揮と歌と合わせないといけないことくらいわかってるよ。
でも、今は好きに弾いたっていいでしょ?
「それだけ言い返せればもう大丈夫でしょ」
本当に、いちいち鼻につくんだから。
「ほら、何してんの?」
「え?」
いつの間にか、神風くんはカバンを持って廊下に立っていた。
「何って……?」
わけもわからず、ピアノの椅子に座ったまま首を傾げる。
「何って、帰らないの?」
「あ、うん、帰る」
神風くんと一緒に帰るなんて久しぶりだ。
一緒に帰るって言っても、わたしたちの間に特別会話があるわけじゃないけれど、ひとりぼっちの帰り道よりも気持ちが軽い気がした。