そんな簡単に……言わないでほしい。
わたしが今までどんな思いでいたか。
「いいんだよ、人目なんか気にしなくて。 俺は楽しそうに弾いてる澪のピアノがいいと思った。 だから、思いっきり弾けば?」
不思議だね。
あんなにうるさいと思っていた神風くんの言葉が、スーッと胸に入ってくる。
好きに弾いていいんだって。
まわりは気にしなくてもいいんだって。
わたしはもう一度椅子に座り直して、鍵盤に手を乗せる。
もう一度、楽譜の最初から。
もう手は震えていない。
さっき止まってしまった箇所は、なんなく乗り越えた。
楽しい。
この前、神風くんと一緒に連弾した時と……
まだピアノを続けていた時と同じ感覚。
神風くんはどんな力を持っているんだろう。
「……はぁっ」
最後の和音を弾ききって、ふわりと鍵盤から手を離した。