わたしにはトラウマがある。
中学生の時に出たピアノのコンクール。
毎年のように出ていたコンクールでは、金賞は何度か受賞したことがあるくらいだけど、毎回入賞はするレベルだった。
元々人前で弾くことに抵抗はなくて、この日もいつも通り演奏する予定だった。
スポットライトに照らされた明るいステージの上に出ていく。
審査員とお客さんに一礼して、椅子に座る。
大きく深呼吸をしてから、白い鍵盤の上に指を乗せる。
ポロンと鳴り始めた音は、繋がって奏でられていくはずだったのに……
「……あっ」
途端に頭の中が真っ白になった。
指が動かない。
今、どこまで弾いたのかわからない。
こんなこと、今まで一度もなかったのに。
まわりはザワついているのがわかった。
客席も舞台袖も。
パッと顔を上げると、みんながこちらを見ていた。
その視線がすごく怖くなって……わたしはステージから逃げ出した。
わたしがピアノを弾いたのは、それが最後だった。