久しぶりだ、この感覚。
ステージの上で、自分の体よりも大きい楽器を操って、奏でて、ホールいっぱいを自分の音で溢れさせる。
今は音楽室だから防音効果のせいで、音が吸収されてしまって響かないけれど。
懐かしい記憶に浸りながらピアノを弾く。
鮮明に思い出してくるあの光景……
「……っ」
ピタッと手が止まってしまう。
手が震えてる。
「なんで止まっちゃったの?」
「……かみ、かぜくん」
振り返ると、ドアにもたれ掛かりながらこちらを見る神風くんがいた。
ついこの前、ケンカみたいなものをしてから教室では顔を合わせていたものの、2人きりで会うのは久しぶり。
どうしたらいいのかわからなくて、顔を隠すように俯く。
未だに右手は震えていて、咄嗟に隠すように左手で押えた。
それを神風くんは見逃してはいなかった。
「何に怯えてるの、澪」
いつの間にかわたしの前まで歩いてきていた神風くんは、ぶっきらぼうなのにどこか優しい声で呟いた。