日曜日のデートだと思いたい、写真撮影は自転車で来て欲しいと桧山から頼まれた。
私たちは自転車で、三十分ほど走った。
結構な距離だったのか、桧山の走るスピードが次第に遅くなった。
かくいう私も息切れを起こしていた。
私の住んでる町は宅地ばかりだけど、少し離れると眺めは開けていた。森や田畑が多く見られる。
太陽が眩しい。思わず目のあたりに手をかざした。

「着いたよ」

林のある舗装されてない道を抜けると、そこには見渡す限り一面のヒマワリ畑があった。
ヒマワリの間近まで寄ると、私は自転車を押してゆっくり歩いた。
よく観察すると夏のヒマワリよりも少し小ぶりに思えた。

「思わずかくれんぼができそうね」

「これは秋ヒマワリと言うんだよ」

秋にもヒマワリが咲くのは意外だった。

「ヒマワリの学名は知ってる?」

「知らないわ」

「太陽の花と呼ばれているんだ」

花が太陽に向くからだろうか。
なんだか響きが良かった。

「それと、ヒマワリの種の数はどれくらあるかわかる?」

「私がハムスターなら食事に困らないほど多いわ」

「ものにもよるけど、多くて三千粒ほど」

それほどなら、沢山の花を咲かせることに納得した。私はじっと花にある種を見つめた。

「僕たちは太陽の花なんだよ。皆で太陽に向かっている」

「でも、皆が太陽に向くのは面白くないわ。私はそっぽ向きたいもの」

「僕もよそ見したい」

お互いに微笑んだ。内心桧山はよそ見をしてるかもしれないと思った。
彼は大人びいてるところがある。自分だけの世界を持っている。
私とは違う。どこか遠い存在のように感じた。

「種は僕たちの感情みたいで、その一粒一粒が新しい気持ちを生み出すんだ」

「私の悲しい気持ちからまた芽が出るのかな」

夏の苦い思い出から生まれてくるものがあるのだろうか。
ヒマワリを見渡しても、私は大勢の中の一人のように思えた。

「きっと芽が出るよ。神崎さんの気持ちから、僕は新しく芽が出たんだ。それは保証する」

桧山はそれでも私のことを好きでいてくれる。
私は未だにはっきりと返事ができなかった。
私も桧山のことは好きだ。
でも、付き合うことで桧山は私のことを幻滅しないだろうか。臆病になっていた。
桧山を失いたくない。

「私は今でも太陽の光を浴びてるのかな」

「夏だけじゃなく、秋にもヒマワリがあるだろう。これは神崎さんだけのヒマワリだよ。陽の光に当たってね」

「冬にも春にも、ヒマワリがあるかもしれないわね」

怪我をした夏の日以外にもヒマワリはある。
秋にも私は日だまりの中にいられるかもしれないと思えた。

「それじゃぁ、写真を撮ろうか」

沢山あるヒマワリの中から私だけを見つけてくれたのは桧山だった。
桧山との関係を壊したくない。
好きなのに告白したいのに、胸が苦しくなる。
私は寂しいのかもしれない。
大切なものほど怖くて触れられない。
彼からモデルの依頼を頼まれたときの感情が懐かしくなった。憎しみさえあった。
今はもう、ただ彼のそばにいたい。