大会当日、天気は快晴だった。
市民競技場に着き、他校の生徒とすれ違う。
その時に『また一緒に走れるね』と顔見知りの人たちから言葉を交わしてくれた。
グラウンドに入り、準備体操をした。観客席を眺める。競技開始まであと一時間あったので、観客はまばらだった。桧山は見に来てくれるのだろうか。
わからない。やはり一言、声をかけるべきだったのだろうか。

「神崎さん」

準備体操とウォームアップが終わり、控室に向かうところで神山先生に声をかけられた。

「今日、神崎さんが走ることは桧山君には伝えてあるわ」

「ありがとうございます!」

もしかすると桧山が見に来てくれるかもしれない。
私は胸に期待を膨らませた。
私は桧山と京子と自分のために頑張ってきた。
今度は私が桧山にできることをしたい。
桧山お願い。私を見つけて!

女子百メートル、私の走るコースは一番端だった。
いよいよ始まる。
セットの声から意識を集中する。
私は必死に車輪を押した。
他の選手たちの背中がどんどん遠く離れてゆく。
前は無音のように感じられたが、周囲の音もよく聞こえる。
今は声援がはっきりと聞こえる。

桧山の写真を見た時から、私はあなたから翼を貰った。
自由になるための翼を。
どんな時でも誰かと笑うことができる。
それに気づかされたのは桧山だった。
今度はあなたのために私が笑ってみせる

息を切らしてゴールをした。
選手たちと握手を交わし、観客からは拍手の音が聞こえた。
私は今までにないくらいの笑顔になった。


相変わらず桧山は学校には来なかった。
大会から、一週間過ぎたころに神山先生から写真部の部室に来て欲しいと言われたので、中に入った。


すると、すぐに目に留まるほどの大きな写真が飾られていた。
三枚構成の組写真だった。どれも陸上競技場で撮られたものだった。
一枚目は京子が観客席で応援してるものだった。
二枚目は私がゴールした時の写真のものだった。
三枚目は桧山がカメラを構えてるものだった。
題名は『三人』とあった。
桧山は見に来てくれていた。私は思わず涙を浮かべた。

はっとして気づいた。裏側にも何かあるかと反対側を覗いた。
すると、そこには私が大会までに練習してる姿が沢山写っていた。
題名は『仲直りしたい』とあった。
回りくどいことに思わず笑みがこぼれた。

随分、時間はかかったけど私たちはまた一緒にいられる。
桧山に会いに行こう。
そして、また彼に告白をしよう。
今度はもうその手を離さない。

永遠に

fin