「水島先生、私の足は本当にもう走れないのでしょうか?」

水島先生は膝を故障したときの担当医。
今でも通院している。
私は先生にお願いしたいことがあった。

「何度も言うように、激しい運動をすると余計に症状が悪化するよ」

「それでも走りたいんです。お願いします。私を大会に出させてください!」


私にできること、それは陸上の大会に出場することだった。
それで何が変わるかわからない。
でも、わずかな期待があるのなら、私の足が壊れても良いとさえ思った。

「今までにない、真剣な熱意を感じるよ。何かあったんだね。話してください」

「私の好きな人と親友を失いました。私のせいなんです。でも、私が走ることで万が一にでも変わるかもしれない。私は二人を、かけがえのない二人を失いたくないんです!」

「困ったものだね。どんなに事情を聞いても私は止めるつもりでいたよ。今でも止めるつもりです」

「先生!」

「神崎さん、車椅子で走るのはどうだろうか?」

「車椅子?」

「車椅子競技というものがあるんだよ。それに出場してみてはどうだろうか?」

「それでは間に合わないんです。だから……」

「神崎さん。大切な二人なんだよね。かけがえのない二人なら、時間をかけて少しずつ以前の関係を戻してみても良いと思う。今じゃなくて良いんだよ。神崎さんが必死になる姿を見てもらうことで、大切な人に感動を受けるかもしれない。たとえそれが、五年、いや十年かかっても私はそれで良いと思う。きっと君のことを見てくれるはずだから」

決心がついた。
もう夏の怪我をしたときの私ではない。
新しい自分に挑戦をするんだ。
たとえ、どんなに時間が過ぎようとも
私は見失わない!

「お父さん、お母さん、お願いがあります」

私は両親に全ての事情を打ち明けた。
桧山のこと、京子のこと、そして車椅子のことも。
私はあまりに焦っていたのだろうか。
過呼吸になっていた。
涙がボロボロと溢れてくる。
私を宥める両親は競技用の車椅子を買うことに承諾してくれた。