「あれ?居ない……?
ここに居ると思ったんだけど……おかしいな?」
「こら、裕太。外に待っていろと言っただろ?
勝手に入るんじゃない」
「あ、ごめんなさーい。
叔父さんが彼女連れ込んでいると分かったら会いたくなっちゃって……えへへ」
「まったく。ほら、これでいいか?」
「あ、それそれ。ありがとう」
裕太君は、嬉しそうに電子辞書を受け取ったようだ。
ドキドキしながらそれ聞いていた。
お願いよ……そのまま立ち去って。裕太君……。
「ほら、早く学校に行け。遅刻するぞ?」
「あ、ヤバい。じゃあ叔父さん、終わったら返すね」
裕太君は、それだけ言うとバタバタと廊下を走って行くのが聞こえた。
どうやらバレずに済んだようだ……。助かった。
現在私が隠れているのは、ベランダだった。
つまり外に居る。まるで、彼女に見つかり慌てて隠れている浮気相手の気分だった。
浮気相手ってこんな気持ちなの!?
いやいや。浮気している訳でも、やましい事をしている訳でも無いのだけど……。
むしろ逆に隠れる必要はないのでは!?
いや、でも付き合っている訳ではないのに、こんな時間に居たら明らかに疑われるわよね?
それに裕太君は、私のお店のバイトの子だ。
見つかったらお店の事まで課長に知られてしまう。
それだけは、何としてでも避けたい。
これ以上バレたら……課長にさらにドン引きをされてしまう。
私は、一体何をしているのだろう?
課長に迷惑をかけて……浮気している訳でもないのに、こんな所に隠れて。
自分でも何がしたいのか分からずため息を吐いた。
「甥っ子は、帰って行ったぞ。宮下?
そこに居るんだろ?出てこい」