昔の私なら絶対にこの申し出を引き受けていた。
いや、例え高熱が出ようが何があっても行くはずだ。
 なのに、頭の中は、ずっと課長の顔が浮かんで離れない。
この日は、大切な大切な結婚式。

 課長と約束したじゃない。
イケメンと好き人は、別物だって。
 私は、課長とその日……式を挙げて幸せになると決めたのに。

 だけど……大ファンの相田君が会えるチャンス。
このチャンスは、宝くじを1億……いや10億円を当てるぐらいに難しいことだ。

 一生分の運を使っても私みたいな一般人が近づくことすら出来ないのに。
 そう考えると心の中で激しく揺れ動いていた。
ダメだと分かっているのに……。

「菜々子さん……」

 ハッと見ると裕太君が心配そうに私を見ていた。
裕太君……!?
 甥っ子である彼も結婚式に出席してくれる。
凄く楽しみにしてくれてるし、私の事情もよく知っていてくれている。

「ゆ、裕太君。大丈夫よ!
 式は、そのまま行うしこの件は……断りましょう」

 私は、心配かけないようにニコッと微笑んだ。
しかし裕太君は、複雑そうな表情をしていた。
 すると他のイケメン店員達は、私の決断に驚いていた。

「えっ?断るのですか!?」

「仕方がないだろ。菜々子さんは、その日。
大切な結婚式があるのだから」

 すると桜葉君が嫌がる店員を止めてくれた。
桜葉君……。

「俺は……菜々子さんが結婚するのも反対です。
俺らの菜々子さんなのに……」

 泣きそうな表情をしてくれるのは、可愛いイケメン店員の天野君だった。
 そんな悲しい顔をしないで……こっちまで泣けてくるから。

「ごめんね……」

 何だか暗い雰囲気になってしまった。
仕方がないのだ。私は、結婚するのだから迷う事だけでも罪なことなのだ。
 諦める事が正解だと自分に言い聞かした。