「どうぞ。狭い所で申し訳ないけど、ゆっくりしていて下さいね」
お母様は、そう言うとまたニコッと微笑んでくれた。
ハッとする。おっと……いけないわ!!
ついトリップをしてしまった。私は、慌てて
「あ、ありがとうございます。失礼します」と言った。
「フフッ……誠にこんな可愛らしい彼女を連れて来るなんて夢にも思わなかったわ。
会う日を楽しみにしていたのよ」
「そんな、滅相もないです……」
可愛いらしいだなんて……例えお世辞でも嬉しい。
そして遠慮しながらもあがらせてもらい、案内される。
中も広くて落ち着いている。
窓から見える庭も料亭のように綺麗に整えられていた。
「さぁ客間は、こちらよ。
遠慮なく座っててね。今お茶を持ってくるわね」
お母様は、そう言うと行ってしまった。
綺麗な人だったなぁ~と改めて思った。
それに喋り方もおっとりとして品がある。
「宮下。座るぞ」
「は、はい」
課長の言葉に慌てて返事をする。
私と課長が隣同士に座る。
お兄様は、向かい側の隅に座った。
あれ?裕太君か居ない。部屋にでも居るのかしら?
そんな事を考えていたら障子の戸が開いた。えぇっ!?
入って来たのは、課長によく似た中年男性だった。
それにヤクザの親分が入って来たのかと思うほどの迫力の怖さだ。
ま、間違いなく課長は……父親似だ!!
私は、すぐにそうだと確信した。
お父様は、無言のまま向かい側の席に座った。
この無口で無愛想な雰囲気にムスッとした表情は、課長にそっくりだった。恐るべし……DNA。
すると無口だった課長が口を開いた。
「父さん。この人がこないだ話した宮下菜々子さんだ。
俺と正式に結婚したいと考えている人です」
「ほう……この人か?」
ギロッと私の方を睨み付けてきた。
ビクッと肩が震える。こ、怖い……。
課長より遥かに怖いぐらいに迫力がある。
まるで蛇に睨まれた蛙ように身体が固まってしまった。