気づいた時には羽依はいなくなっていた。

代わりにオレの枕元にいたのは、母だった。


「母さん...」

「ん?あら、おはよう。帰ってきたら椎名羽依さんの置き手紙があったから心配で隣で寝たんだけど、朔空、ぐっすり眠ってたみたいだから良かった」


そっか。

羽依、わざわざ母さんに手紙書いててくれたのか。

それなのにオレは......

あんなこと考えて......。

なんか、最低だな、オレ......。


「朔空?」

「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」

「まだ熱あるのかしら?熱測ろっか」

「うん」


母がオレのために色々と動いてくれる。

その姿が昨日の久遠の姿と重なった。

胸がぐっと締め付けられ、苦しくなる。

なんだ、この痛みは......。

なんでこんな苦しいんだ?


「はい、体温計。体温計ったら朝食にしましょうね。朝ご飯食べたら、母さんスーパーのバイト行ってくるわね。今日は早く帰るからちゃんと寝て待ってるのよ」

「了解」

「あっ、そういえばこれ。玄関に吊るしてあったんだけど、一体どちら様からかしら?朔空、心当たりある?」


母がオレに見せてくれたのは、ももの缶詰めだった。

まさか......


「たぶん、部長だと思う」

「あ~、朔空が今年からお世話になってる部活の!」

「そう。昨日その人が来て色々やってくれた」

「えっと......じゃあ、2人も女の子が家に?」


ヤバい。

今考えたら完全にヤバい。

2人も家に上がらせるとか、何してるんだ、オレ。

熱が出ているとはいえ、思考が狂いすぎだろ。

母さんに変な勘違いされたらどうするんだよ。

オレは誤解を防ぐため、とりあえず口を開いた。