他人の家に上がるのは、祖母宅を除けば始めてのことだ。

ワンコの部屋に通されたが、男のわりにはなかなか綺麗に整頓されていると思った。

これは感心だ。

なんて、そんなことを言っている場合ではない。

この病人をなんとかせねば。

私は布団にくるまり、ぶるぶる震えるワンコに声をかけた。


「あのー、病院には言ったんすか?」

「午前中に行った。で、インフルの検査されたが、陰性だった」


ほぉ。

なるほどなるほど。


「了解っす。で、お母様やカノジョさんには連絡はしたんすか?」

「母はヘルパーの仕事をしてるんだが、今日は夜勤だ。羽依は部活が終わったら来てくれる...ゲホッゲホッ」

「それなら、私はいらなくないっすか。あと2時間くらい耐えられるっしょ?」


嫌みを言うと、ワンコが布団から腕を伸ばし、私の腕を掴んできた。

その手は、沸騰後のヤカンの柄を掴んだ時のようにものすごく熱かった。


「寒気が止まらねえんだよ。それにふらふらするし。助けてくれよ、久遠」


情けないな。

産まれ持った美しい顔が歪んでいる。

とはいえ、可哀想だから手を貸すとするか。