鼻を刺激するアルコールのような臭いがして、私は目をパッと開けた。


「ワンコ!」


思わず叫んでしまったのは、市ヶ谷朔空のあだ名だった。

私が直感でつけてしまった、申し訳ない名だ。

こんな時にパッと思い浮かんでくるのはいつだってワンコだ。

不思議とあいつは私の心のど真ん中にあるのだ。

世の中、何も予想出来るものなどない。

私の今まで計算しつくして出した答えや確固たる仮説は、とある1人の登場で覆されたのだから。

なんてことを考えている場合ではない。

目覚めたらまずすべきことがある。

私はベッドから飛び起き、服を整えるとカーテンを開けた。

すると、景色は大きく変わった。

廊下からドタバタと生徒が昇降口へと向かっていく音が聞こえる。

そして、目の前にいる人物は憔悴しきって私が目覚めたというのに、微笑みさえなかった。