もう、戻ってきたらしい。
何一つ言葉を考えられないまま、足音が迫ってくる。
いつものペースより、少し早い。けれど、ゆったりとした綺麗な音のような気がする。
どういう振る舞いをすればいいのかもわからず俯いて、横から節くれた指先が伸びてくる。影はすっぽりと私の姿を消して、遼雅さんの手が、私の手に握られているリモコンに触れた。
ぷつん、と音を鳴らして、テレビの電源が切られてしまう。
付けられていた時間はほんの1分にも満たなかっただろう。
「りょう……」
「テレビはおしまい」
湿った匂いがしていた。
髪を乾かさずに出てきたのだろう。
いつもそうだ。おそるおそる振り向いて、同じように私を見つめていた瞳と視線が絡んだ。
「髪、ちゃんと乾かし……」
「すぐに乾くから、大丈夫」
いつも同じように、今日も遼雅さんは取り合ってくれないらしい。
近づく距離で、ばくばくと音を立てる心臓のありかに気づかれてしまいそうだ。
初めの日のように、それ以上にやさしい指先で、そっと抱き起される。
膝の裏に手を入れて、横抱きした人が笑ったまま、私の体を持ち上げてしまった。
「おもいですから、やめてください」
「重くないよ。柚葉さんは羽根でもついてる?」