何度考えても、どうして遼雅さんが私の身体に触れてくれるのか、わからない。
プロポーズの翌日、目が覚めた時に「温まりましたか」と聞かれたことを覚えているから、もしかすると、抱きしめてほしいという言葉をそういう表現として捉えられてしまったのではないかと思い至っていた。
ずるずると関係をつづけて、言い出すこともできずに週に何度か誘われるまま、おぼれてしまっている。
自分自身が情けなく感じて、洗いかけのお皿を水で流しながら、ため息が漏れてしまった。
触れるたびに細胞の一つひとつが歓喜している気がする。
おかしい表現だと思うけれど、遼雅さんに触れられると、他のことなんて何一つ考えられない。
考え事は寝室の宙に浮いて、空中分解を起こしてしまうのだ。
遼雅さんだけになってしまう。
依存するあさましい人間にはなりたくない。
殴られたときの恐怖は忘れていないし、遼雅さんがどれだけ苦労していたのかも知っている。
私がほかの女性と違う、精神力の強い人間だなんてすこしも思ってはいないけれど、遼雅さんに会社で携帯を差し出されかけた時、心から、やってはいけないと思えたことに心底安堵している自分がいた。
この結婚の終わりは、たぶん近い。